EKAKINOKI

落ち着きを取り戻したモスクワ

そんなおもいを抱きはじめたのは1年ぐらいまえからだったかもしれません。いまは、ほかの国の都市とあまりかわらず、町ぜんたいが働いてるってかんじがしないでもない。給料もいちおうちゃんと支給されているみたいだし。

エリツィンが2期目をつとめていたころは、「給料を払ってくれない、、」みたいなはなしが巷にあふれていました。働いているのかいないのかよくわからない妖しげな雰囲気が町に漂い、ひとびとの顔にはペシミスティック(悲観的)な表情が見え隠れしていました。

モスクワが落ち着きを取り戻してきた理由としてひとつかんがえられるのは・・・

ソ連が崩壊して10年以上経ち、市場経済、わけても市場のあたらしい需要に答える新規事業、たとえばコンピュータ、金融、商業などが、社会に影響を与えるぐらいじゅうぶんに成長してきたことがあるとおもいます。

ただそういうところでは、若いひとたち(20代)しか雇用しない。ロシア経済の心臓モスクワでは、新卒は言うにおよばず、若いというだけでべつだん手に職がなくとも、ニンマリするような(給料的に)仕事をすぐに見つけることができます。いっぽうで、経験豊かであっても、年齢がいっていると能力にふさわしいポストを見つけるのは至難のワザ。

結果的にいまのロシアは・・・実体と活気がある新規事業分野でまともな給料をもらって働いている若いひとたち、そして、シンボリックな(おはなしにならない)給料をもらって、ソ連時代からひきつづきおなじ職場で働かざるをえないその他大勢のひとたち・・・このふたつにおおきくわかれているようにみえます。

ソ連時代からひきつづきおなじ職業についているひとたちは、エンジニアにせよ教授にせよ医者にせよ、国家公務員であるために、待遇の改善といっても行政に期待する以外にはなく、あまり恵まれているとはいえません。そういう状況をもしドラスティックに(劇的に)変えようとおもったら、もうひとつ仕事をかけ持ちするか、ワイロしかない。

いっぽうでおなじ医者でも、あらたに設立された最新の医療システムで働いている医師はハイレベルな給料をもらっていますし、また警備員(←本格的なひとたち)なども市場のあらたな需要に支持された商品価格をもっているので、おなじの大学で教えている教授連より何倍も多くの給料をもらっていたりすることがあります。

ところで・・・いまの時代の需要に答えるあたらしい事業分野が雇用を拡大し、それが町の活気につながっているのはジジツだとおもうのですが、それだけでは、そういう分野で働いていない大勢のひとたちも含めて、モスクワの町ぜんたいの表情が落ち着きを取り戻しつつあるのを十分に説明しきれていないかもしれません。そこで、もうひとつかんがえられることがあります。

『旧ソ連帝国』の住民はいままで(すでに10年以上)、認めたくないゲンジツと認めなくてはならないゲンジツ、じぶんが信じたいゲンジツと過酷なゲンジツのあいだをいったり来たりしていたのではないでしょうか?『見ザル聞かザル・・』だったというのではなくて、それほど『思い込みが激しい』ひとたちだからです。

たとえば『絵』の値段・・・あるロシア人は欧米の絵の値段を参考にして、オレの作品は100万円だなんてやっていましたし、またべつのロシア人は、インフレーションであらゆるモノの値段が高騰し、お金の価値がどんどん減っていくゲンジツなどとはまったく無縁ででもあるかのように、旧態依然とした値段でやっていました。もちろんどちらもうまくいくはずがありません。

キャラメル一個にしても、社会のあらゆる価値と密接に結びついてその値段が決まっています。そういう価格決定のシステムがまったくなかったところで、一日の単純労働がいくらなのかさえまだはっきりしていないところで、キャラメル一個のまっとうな値段がすぐにでてくるわけがありません。

こういう混乱は、ロシア経済にもそのままあったとおもうのです。しかしいつまでもゲンジツのなかでじぶんの位置を見出せず、じぶんがいったいどこにいるのかさえ分からなければ、将来も不安です。その反対に、もしじぶんがどこにいるのかが分かってくれば、すこしはマシな明日があるかもしれません。

あしかけ10年も『混乱』をやっていると、じぶんを取り巻くゲンジツを、好むと好まざるにかかわらず、受け容れざるをえなくなります。『なにがなんだかわかんない状態』だったのが、しだいに『こんなもんか状態』にもなってきます。

ロシア社会がこうしてゲンジツを受け容れるという『地道な出発点』にようやくたどり着くと、まるで呪文が解かれたかのように、ソ連崩壊後の経済混乱にも終止符が打たれた(とりあえず)・・・

こんなのも、モスクワが落ち着きを取り戻しつつある理由のひとつではないか、なんておもったりもします。活気、とまではまだ言えないかもしれませんが、それに近いパワーは、すでにいろいろなところでかんじることができます。

(2004.01.12. Moscow)

※ 写真:(上)クズネツキーモスト付近 (下)国立レーニン図書館前 いずれもクリスマス時期に撮影。

※ 昨年(2003年)12月7日のモスクワ市長選で当選したルシコフは、最低限の生活保障を謳い、モスクワ市民にたいする年金支給額の大幅アップ(約60%)を約束しました。

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