EKAKINOKI

ツェリテーリ随想

キーラ・ガブリロヴァ著『美食家のためのパレット』より訳

朝の6時、健康で才能に溢れ、自由を満喫しているこの男の一日がはじまる。なによりもまずすることは、愛する仕事、絵を描くことだ。

ピンと張ってまっしろな画布に向かい、作家の言うことならなんでもきく幅広の筆を手にする。昨日いけた色鮮やかな花のブーケはかすかな匂いを放ち、窓の外は吹雪いている。

理想的なアトリエ、上質の家具、かがやかしい過去の作品に取り囲まれて、芸術家としての名誉を手にした男の静かな時間がながれている。 自然の模写ではない、花のかぐわしさ、優雅さ、完璧さ・・・今朝花から得た感動をそのまま伝えたい。

紫色のスミレのかたわらで菊の銀白色をひきたたせるにはどうしたらいい・・?ユリの冷たい白に対抗しないように葉の緑色を配置するには・・?水色の花瓶にいけられたグラジオラスの繊細な感じを引き出すには・・?

どれほどのコントラストと色彩が花の美しさのなかに込められていることか・・。そういう花の純白さをキャンバスに写しとるなんて所詮無理。だから・・そこに感じた驚きやハーモニーをそのままキャンバスにぶつける。

パレットに向かう。ところでこのパレットがタダモノではない。いっぺん見たひとはそのすさまじい油絵の具のボリュームを忘れることができないだろう。パレットが美術館に陳列されていたりすることがあるが、画家が使っているパレットに注目するのにはそれなりのワケがある。パレットは、画家の偉業を解く鍵になることがある。

この男のパレットは、指をさし込んで支えているような、そういうのとはだいぶ違う。アトリエにがんと据えられた傾いたつくえ!もちろんそこに、絵の具がシミのようについているのではない。畝(うね)をなしているのだ!フリーダム&ハッピー!

男の腕が、鳥の翼のようにパレットとキャンバスのあいだを往復する。ばかでかい筆がリズムにのる。ひと重ねふた重ね、汲んで捏ねて引き延ばして、塗って混ぜて・・白いキャンバスがまるで太鼓のようにうなりをあげて歌をうたう。

男はキャンバスのなかで花を摘み、自分だけのブーケを作っていく。その純潔さにおいても寛容さにおいても、自然にはばかるところがない唯一無二のブーケができあがっていく。

ある展示会でこのブーケを前に長いこと立ちつくし、しごく感嘆したように英語でこう言い放った御仁がいた。「うまそうだ・・!!」

(2000年はじめ)(2001.11.08. 加筆)(2003.06.27. ファイル分割)

かんれんファイル

■ ツェリテーリと「百万本のバラ」

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