EKAKINOKI

パウストフスキー筆「ロマジンの白夜」訳

Nikolaj Romadin, 1903-1987

蒼白の北国は格別だ。無言の力強さをもってしずかにひろがる。そんな骨太の北国の風景が、一年のうちたったひとときだけ、透明感のある、神秘的な明るさをともなった、優しい表情をみせるときがある。それが、白夜だ。

白夜の柔らかみのある薄明るさを表現するのは、簡単ではない。ものおもわしげで、かぎりない静寂さが、そこにはある。文学者、詩人、画家が、白夜を表現しようとなんべんもこころみた。そして、ただ天才プーシキンだけが、そのものずばり、一言で表現し得た。

「月..?照ってない..。
夜明けにしてはやけに透明感がある...。
それがものおもわしげなおまえの、夜だ。」

この一節が、白夜のすべてを語っている。ほかの詩人たちは、かろうじて白夜のもっている表情のどれかを、あらわし得ただけだ。ブロークは「危険な」と表現した。フィエートは「炯眼な」と。パロンスキーはこう書いている。「白夜。なぜなんだ。おまえにこんなにもひかれる。かぎりなくせつないおもいで、おまえに恋い焦がれてしまった。」でも、パロンスキーはこう書いたほうがよかった。「せつない!おまえに恋い焦がれてしまった。」なぜなら、白夜のうつくしさのほうが、パロンスキーの恋心より絶対的なものだからだ。かならずいつか消えていくうつくしいものには、なおさらに胸がしめつけられる。

「白夜」 / 1947年 / トレチャコフ美術館

ロマジンの作品にも、白夜をえがいたものがある。場所はレニングラード(いまのサンクト・ペテルブルグ)ではなくて、どこか郊外のさびしげな原野だ。これがまたいい。

木造りのテラスが、まず目に入ってくる。窓は、白夜にむかって開け放たれている。だれかが脱け出したあとのベッド。かたわらの書き物机には、ランプが黄ばんだ灯りをはなっている。

窓のむこうには、薄明るく白ずんだ不思議な雲、遠くには湖の輝き。草木が暗いかげをなし、牧童のたきびが、はるかかなたかすかに見える。白夜の、こんなにも神秘的な誘いに抗しきれる者はいない。目が醒め、寝床から起きだして、おもわず原野にさまよいでたのだ。

「静けさ」。時間が、だれにも邪魔されることなく、ゆっくりとながれていく。この世になんべんも繰り返し訪れる夜。でも、白夜のうつくしさは他にかえようがない。

※ コンスタンチン・パウストフスキー(1892ー1968)ソヴィエト時代の代表的小説家のひとり。ジャーナリスト出身で、童話なども数多く書いた。以下、パウストフスキーが執筆した「ニコライ・ロマジン画集(ロシア風景画家)」(1962年版)より。

ロマジンかんれんファイル

■ ロマジンの風景画・・・
■ パウストフスキー筆「風景画家ロマジン」
■ パウストフスキー筆「ロマジンの白夜」

白夜についてのファイル

■ ペテルブルグの魅力とモスクワの活気
■ 森の番小屋

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