EKAKINOKI

古代の呪文が入ったスープ

オレーグ・タルチンスキー評訳

バシェーニンの作品はほかの誰のものとも似ていない。時代を越えて描きなおされ、つけ加えられした見事なイコン?!どこか知らない土地の紋章?!空から降ってきた、だれも読むことのできない古代文書?!バシェーニンの作品は、見る人にいろいろなことを想像させる。

『生と死』の境目、『動物と人間と植物』にも境目がなくて、まるで魔法の世界だ。それらが対等にまじり合っている。女性と鳥。村と家。鳥と花。古代の信仰と呪文。さらにそこには森と川の香りが漂っている。岸辺でのたき火。さわやかな風。水の深みのある色。ばかでかい鍋のなかでグツグツいっている魚のスープ。

芸術家の作品を料理にたとえるなんて!でも、バシェーニンは許してくれる。彼自身ヴォルガ河畔で生まれ育っているからだ。魚のスープがどんなにおいしいか、いろいろな種類の野菜や草がいっしょに鍋のなかで煮つめられ、みごとな味と香りになることを、バシェーニンは知っている。

バシェーニンの作品にもおなじことがいえる。さまざまな、なかには相反するような題材がバシェーニンの『想像』という鍋のなかで煮詰められ、オリジナリティーにあふれた作品となる。スープはたとえ話だが、根本的にはまちがっていない。

バシェーニンはアヴァンギャルドの代表選手のひとりだ。それも伝統的なフォークロアに根ざす個性あふれるヤツだ。そこにみえるのは、古代のイコン、古文書のデザイン、民衆芸術(版画・彫り物・織りもの・飾り物)。どうだ、やはり魚のスープだろ?

バシェーニンの作品を注意深く見てみる。絵の具そのものもそうだが、モノの『かたち』が何層にも重なりあってえがかれている。奇妙な線が、まるで静脈のように作品の表面をはしっている。ひとつの『かたち』がまたほかの『かたち』の上にえがかれ、それが幾重にもかさなり合って、まるで繁茂した枝のようだ。しかもそれらがおたがいにバラバラに主張し合っているのではなく、調和をもってひとつにまとまっている。まるで紋章学ででもあるかのように、整然としている。

「いわゆる『主義』と名がつくものをいろいろと追い掛けていた時期があった。とくに、まだ絵を勉強していた頃・・。なにかを突き止めたいとおもって、いろいろやってみた。あたまからなにかを否定するということはなかった。アカデミズム、移動派 ※、アブストラクト。そして行きついたのが、ロシアの民衆芸術だった。

※ 民衆のなかにもっと絵画を浸透させようとしてロシア各地をまわって作品を展示したロシア革命前の芸術家たち。

百姓家に掛かっているイコン、版画、物入れ、機織り機にえがかれたデザイン、飾り物、刺繍。わたしの作品はあそこらへんからきている。水、雲、大地、火、木、花、鳥、魚、獣、人、家。素朴な対象かもしれないけど、そこにはいろいろな意味が込められている。尽きないね・・。」

「じかに描きはじめる。だんだんとアイデアがわいてきて、それがしだいに結びつきあっていく。家とか鳥、花。個々の題材が制作のスタートの部分。キャンバスのうえで色と形が響き合うようだと、そこにほかのものを付け加えていく。そして、だんだんと全体の構成ができあがっていく。

この過程で絵が変わってしまうこともある。細部は『カン』かな・・。最後に、全体の『意味』を決定する作業。これが、いちばんタイヘンで興味を惹かれるの。えがかれたものが全体としてなにを象徴しているのか。まるで『クロスワードパズル』だよ・・。夢中になる。作品がいけるかいけないか、ここですべてがきまる。べつに神秘的なことじゃないんだ。『直感』と『想像力』のゲームさ。」

バシューニン展入口風景(2003.12.24.)

「それはピアニストの即興みたいなものかもしれない。絵のなかに、ぴったりとした『意味』をうめこむことが大切なんだ。一目みて分かるような。細部は、それにくらべたらカンタンさ。家、鳥、花 ・・それらはおたがいに響き合っている。途中で消してしまうのもあれば、あらたに付け加えるのもある。こうして全体に調和をつけていく。

村のおばあちゃんたちが『織物』をするのとおんなじさ。色も形も素材もちがうのに、これしかないって具合に仕上げちゃうんだからね。これは考えて出来ることじゃない。『即興』なんだ。」

「油絵は一年かけるね。それから壁に掛けてやりそこないがないか、目についてくるのを待つ。そして仕上げ。絵が完成したときというのは、なんとなく感じるんだよ。」

「みんなきくんだ。なにが象徴されているのかって・・。わたしはヴォルガ河畔で生まれ、そこのすべてに愛着をもっている。教会、田舎家、花、鳥、イコン・・それをキャンバスにかいているだけさ。」

バシェーニンのファイル

□ 古代の呪文が入ったスープ
■ ロシア人の心象風景

ART INVESTMENT AGENT JAPAN RUSSIA SOVIET ITALY