EKAKINOKI

ロシア人水墨画家

ヴァレリー・アヴェーリン

ロシア人というから、ずんぐりモッコリ、しかも男だから腹の出た、なんとなく風情のさえない中年男を想像していた。待ち合わせピッタリぐらいの時間に、まだ身体のできあがっていない学生のような体格のヴァレーリー・アヴェーリンが、つばなしの白い帽子を頭にチョコンとのせて現われた。背も高くない。そよっと吹く風にちょろちょろ、ちょろちょろっと木の葉がのってきたかのような歩き方。差し出した右手を、アヴェーリンはニコニコして両手で拝むかのように握った。

なんともきゃしゃなひとだ。こんなロシア人、あまり見たことがない。国際交流基金の招待で昨年3度目の来日をし(今回は東京)、そののちもアーティストとして滞在している。

このひと、知るひとぞ知る水墨画家。故国ロシアでは、モスクワ一格式が高いマニエージュでもその作品が展示された。モスクワのマニエージュで展示が許されるというのは、ロシアで一級の画家として認められていることを意味する。また、日本大使館の後援を受け、ロシア・日本の各種マスコミにも幾度かとりあげられている。

マニエージュの展示会で、アヴェーリンの作品にロシア美術界の重鎮ツェリテーリがつよい関心を示した。「ほぉ〜。いままでにない手法だね。」

しかしこの「水彩画家」というロシアでの評価にアヴェーリンはあまり納得していない。「水彩画家」ではなく「水墨画家」なのだ、とアヴェーリンは言う。アヴェーリンは、時折カラスを作品に描く。「ボクはカラスのともだち。みんなカラスを忌み嫌っているけれど、ボクがロシアで墨絵を描くときは、仲間はずれのカラスたちとたいしてちがわない。」ロシアで「水墨画」を前面に押し出すとまさにそのカラスになってしまうようだ。

「あんたがすぐれた画家だということは認めるけれども、なにこのスタンプ?おかしいよ。ふつうに署名しなよ。」「なんだってトイレットペーパーみたいな紙をつかうんだい?」ギャラリーから声が掛かっても、作品の行き先はアメリカやヨーロッパだという。でもアヴェーリンさん!認めてくれるのなら、べつに印を押さなくてもいいんじゃないの?作品が大切なのであって、スタイルを主張することが目的ではないのだから。サラッと署名して「水彩画家」で通せばいい。

アヴェーリンと水墨画との付き合いは、15才のときに画集で水墨画を見て感激したときからすでに30年におよぶ。そののちアヴェーリンはデザインの教育を受けた。ほんものの水墨画に出会ったのはベラルーシのミンスクで開かれた中国水墨画展。アヴェーリン25才、中国とあまりいい関係になかったブレジネフが死んだ1982年のことだった。アヴェーリンはここで、水墨画のなかの空白部分の使い方につよい感銘を受けた。

彼のあたらしい「絵」の探究が本格的にはじまる。「求めるものは出会う。」そののちミンスク(ベラルシア)で、レニングラード(いまのサンクト・ペテルブルグ)で、ソ連を訪問中の著明な日本人水墨画家と出会っている。まだ「KGB」が健在で、外国人とはまともに話しすらできなかった頃のことのことだ。そしてついに、1990年に来日を果たした。このとき、直原玉青氏(日本南画院会長)のもとに弟子入りし、のち、直原氏より「青羅」の名前を授かった。

アヴェーリン作品の、軽やかで、危ないぐらいに繊細で、透明感がある美しい色彩は目を惹く。この色彩感覚は、やはり日本人のものとはちがう。

中国の水墨画は日本の水墨画より表現が激しく、筆を持つ角度もちがっていたりして、「日本の水墨画のほうが性に合っている」・・んだそうだ。「日本にいるほうが水墨画家としての刺激がある」とも、アヴェーリンはいう。日本にいて水墨画を描いているのが心の底からたのしくてしようがないといったかんじだ。

しかし、日本でも何回か賞を受けているアヴェーリンでも、外国人がじっさいに「水墨画家」としてマーケットにでていく大変さは想像を絶するものがある。おなじ作品でも外国人の手によるものとなると、たいがいの日本人はちがう目で見てしまうからだ。外国人の作品とわかった瞬間に、ほとんどの日本人が彼らより「分かる」とかんじる。外国人には「所詮分からない」部分があると考える。

たしかにそういう面はあるかもしれない。しかし、それはあくまでも作品から感じるものであって、外国人陶芸家だから、外国人水墨画家だから、と顔や名前を見ての先入観であってはならない。いまでは名の知れた外国人陶芸家が、かつては日本人の名前で出品して大賞をものにしたとか、あえてヨーロッパ調の器をつくるとか、みなそれぞれに頭をひねっていたりする。

つけたし

※ 日本経済新聞(2000.11.29. 文化欄)に、水墨画家・イラストレーターとして紹介されている。

※ 日中友好協会水墨画展 2001年11月13日(火)より一週間 場所:東京・飯田橋 電話 03-3816-7823

アヴェーリンのファイル

□ ロシア人水墨画家
■ アヴェーリンを日本に引き寄せたもの
■ アヴェーリンとシャガールと水墨画

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