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『聖十字軍伝説』・・15年かけた修復

ピエーロ・デッラ・フランチェスカ
Piero della Francesca 1416-1492(Arezzo)

評訳: ExibArtDomenico Guarino  03.04.2000.

Piero della Francescaアレッツォのサン・フランチェスコ教会にあるフレスコ画「聖十字軍伝説」は、ピエーロ・デッラ・フランチェスカの最高傑作とされている。1452〜1466年にかけてピエーロ・デッラ・フランチェスカが描いたこのフレスコ画は、美術史の「それ以前」と「それ以後」のあいだによこたわる分水嶺。来たるべき絵画技法変革の予告者だった。

「聖十字軍伝説」は、「しっくい」を塗る際に用いた水にまざっていた硫黄分と、おもてから入ってきた硫黄分を含む粉塵が、長い年月をかけて化学反応を引き起こし、考えられるかぎりの最悪な保存状態に陥っていた。

1985年からはじまった修復作業には、最高のスタッフと最新の技術が投じられ、以後修復は15年間にわたって続く。「聖十字軍伝説」はいま、長年の懸念だった損傷をようやく取り除くことができた。そのために注がれた甚大な努力に敬意を表する。結果的にはひじょうに満足のいく状態で修復作業が完了した。しかし、修復以前の「聖十字軍伝説」はフレスコ画としての生命を危ぶまれていた。レオナルド・ダ・ヴィンチの「最期の晩餐」とおなじぐらいに危機的だった。

ところでこの修復作業は、ピエーロ・デッラ・フランチェスカのテクニックをより深く理解するのに絶好の機会をあたえてくれた。ピエーロ・デッラ・フランチェスカは、フレスコ画を描くにあたって従来から最良とされてきた技法を用いたことは言うにおよばない。また一方で、木版上に描く際のテクニックをも応用した。ほんらいフレスコ画はしっくいが乾ききらないうちに描きあげる。ピエーロ・デッラ・フランチェスカは、乾いた壁に油脂分のあるテンペラを用いた。空色顔料のほか、鉛白、緑青、ラックをもつかっている。そこには、ピエーロ・デッラ・フランチェスカの異論の余地のない天才性がみえる。

Piero della Francesca「聖十字軍伝説」の修復は、文献学と最新のテクノロジーが注ぎ込まれた「現代修復の最新モデル」だ。修復の責任者を務めたアンナ・マリア・マエツケ(アレッツォ監督庁)も、やっと長年の重責からひも解かれた。研究と分析を積み重ね、しかるべき手法の模索。その間にはうまくいかないこともあった。なん回も実験が繰り返され、その結果待ち、ということもめずらしくなかった。かぎりないしんぼう強さと責任が要求された。

ピエーロ・デッラ・フランチェスカが「聖十字軍伝説」を描き始める前から、建物そのものに問題があったことが、文献によって知られている。地盤はしっかりしていないし、教会は中世時代に築かれた基盤のうえに建てられていた。しっくいを塗るはずの壁も、過去のしっくいが残っていたりして、とても健康的な状態とは言えなかった。そればかりではない。ピエーロ・デッラ・フランチェスカが自分のアートに専念しているその最中にも、地震の心配をしなければならなかった。

近世について言えば、今回の修復は4回目になる。過去3回の修復はほめられたものではない。1858年に、欠落した部分の補修をしたのが、フィレンツェでジョットの修復をした当時の著明画家兼修復家。1915-16年には、はがれかけたしっくいの裏側にセメントを注入する作業がおこなわれた。これはいけなかった。セメントによる介入そのものがではなく、そのときにつかった水にかなりの塩分が含まれていた。硫黄分による化学変化、粉塵、夏の暑さからくる壁画の痛みに、1960-65年、ふたたび手が加えられた。しかし、このときは技術がともなわず、じゅうぶんな成果をあげていない。

1980年にいたっても状況は悪化する一方だった。「壁画の損傷はいちじるしく進み、危機的な状況にあるのがひとめで分かる。」当時のアレッツォ監督庁責任者マルゲリータ・レンツィーニ・モリオンドがこう述べている。

1985年になってついに、「ピエーロ・デッラ・フランチェスカ・プロジェクト」が組まれ、以後15年にわたった修復作業に、美術史家、修復家、化学者、物理学者、生物学者、地質学者、建築エンジニア、分析、コンピューターの専門家が呼び集められた。監督にあたったのは大学、修復センター、鉱石会社。さらに可能な限りの努力と研究を支えた政府および民間の経済的支援。なかでもとりわけエトルリア・ラッツィオ人民銀行の、10億円相当(当時の換算レート)の寄付は忘れてはならない。

(訳 2001.04.12.)

ピエーロ・デッラ・フランチェスカ修復プロジェクト
http://www.pierodellafrancesca.it/

かんれんファイル

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修復かんれんファイル

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