EKAKINOKI

マレーヴィッチとイコン

Kasimir Malevich 1878-1935

展評訳: Exibart / Christiana Margiacchi 2000.06.26.

Malevichヴェローナのパラッツォ・フォルティで、20世紀の重要なアーティストのひとりカジミール・マレーヴィッチに捧げた展示会が催されている。美術史上神話的とも言える1920年代、アヴァンギャルド芸術の屋台骨を成していたひとりがマレーヴィッチだった。マレーヴィッチの過激さと神秘性は、アーティストとその作品を謎めいたものにし、わたくしたちを惹き付けてやまない。マレーヴィッチの芸術は、やがてシュプレマティズム(※)へと展開していく。

『象徴主義の初期マレーヴィッチ作品』にはじまって、『円熟したシュプレマティズム作品』にいたるまで、四角や十字や円形で描かれた作品から、謎めいた比喩を込めて人間の姿がまたふたたび作品のなかに現われるまで、この展示会ではマレーヴィッチの全体像をたどることができる。

とくに今回は、『マレーヴィッチの世界』と『ロシアイコンの世界』に焦点をあてるという、いままでに前例がない企画だ。100点を越す作品を並べて展示し、『マレーヴィッチとロシアイコン』を現実に比較してみようというわけだ。美術史上未解明のテーマのひとつに、とことん迫ることができる。

ロシア・イコンは、マレーヴィッチ作品の原点にあると考えられている。たしかにマレーヴィッチの作品とロシア・イコンよく似ている。お互いが求めてやまなかった色彩にさえ、共通点があるようにおもわれる。

Malevichタチアーナ・ヴィリンバチョーヴァによれば、教会で聖なる御宝としてイコンが描かれはじめたのが5〜6世紀頃。ロシアのアーティストたちはイコンの複製に励み、キエフ、ノヴゴロド(※)、ヴラディーミルにイコン制作の拠点がきずかれ、イコンはひろく流布するようになった。

※ 1136-1478年 ノヴゴロドは9世紀以来商業路の要衝。15世紀モスクワ大公国に併合されるまでノブゴロド共和国の首都。

ノヴゴロドで制作されていたイコンは、はっきりとした幾何学的な輪郭を有し、健康的で素朴な構成をもっていた。芸術的にイコンがさらに洗練されるのは、モスクワで制作されるようになってからである。

その頃になると、イコンはさらに心の安寧を追求するようになり、より明るく、変化に富んだ色彩で描かれるようになる。ラインも柔らかみをおび、全体としての調和を重んじるようになった。それはやがて、民族的な象徴ともなっていく。

イコン、およびその技法が日の目をあびるようになったのは20世紀になってからだ。その調和をもった美しさがひとびとを驚かす。たしかに素朴な生活のなかからうまれたプリミティブなアートではあったが、絵画制作上のコンポジション、素材、色彩に限界を感じていた、新しい世代の大芸術家たちに新鮮な感銘を与えた。

イコンにみられるような、『転倒した空間』のとらえかたはマレーヴィッチ作品にもみられる。1928ー32年にかかれたマレーヴィッチの『農民のあたま』をみてほしい。(左上画像)農民の顏が作品の大部分を占め、背景には赤い十字架がえがかれている。広大に広がる、のどかで歓びに満ちみちた大地よりも十字架のほうが強調され、まるで飛出してくるようだ。色彩は明るくて鮮やか。

作品が象徴しているものは、あきらかにイコンに共通している。顏の白さは『純粋さと無垢』を表わし、紅色の太陽は信仰心と慈しみの心で大地を照らし出している。この農民が象徴しているのは『はじまりと終わり』=『いっさいと無』=『この世の創造者であるとともに救済者』。すべてが順をおって垂直に配置されている。この世を肩にのせた守護者は、イコンにとてもよく似ている。

マレーヴィッチ作品
http://www.ibiblio.org/wm/paint/auth/malevich/
(Web Museum, Paris)

(2003.01.30. 点検)(2003.07.31. 点検)

※ 文中の(※):1915年、サンクト・ペテルブルグの展示会でマレーヴィッチは白地に白い正方形を描いた作品などを展示。『supreme=最高』。白地に白い正方形を指してマレーヴィッチくん・・「これ以上の芸術はないよ・・」と言ったのかな?第一次世界大戦のため、シャガール、カンディンスキー、リツキー、プーニらがロシアにいったん帰国していた1914−17年は、ロシア・アヴァンギャルドの黄金期。

※ 展示会: 2000年7月7日〜11月5日 / Palazzo Forti , Galleria d'Arte Moderna e Contemporanea, Verona
Palazzo Forti(展示会場サイト)
http://www.Palazzoforti.it/

マレーヴィッチかんれんファイル

■ マレーヴィッチとイコン
■ マレーヴィッチ自画像
■ 教会とイコンのファイルもくじ

絵画 ロシア イタリア