EKAKINOKI

ヴェネツィアの水害&カナレットの風景画

評訳: ExibArtDario Camuffo(Dirigente di Ricerca CNR ICTIMA, Padova)2001.02.14.

Canaletto環境破壊は、直接的、間接的に地球規模に達し、地球の未来をおびやかしている。温室効果は地磁気にも影響を及ぼし、それがまたヴェネツィアの水位にも関係してくる。この一連の問題を解く鍵のひとつが、過去の資料研究だ。

イタリアにおける気候、地磁気の重大な変化は、ここ数十年間継続的に調査され、ゆうに最近2〜3世紀をカバーしている。パドヴァでは、1725年以来の歴史資料にもとづく研究が続けられているが、これは世界でももっとも長期にわたる資料研究のひとつだ。

千年単位の時間における現象は、年譜、各種記録をもとに研究される。近世の気象学データについてはいうまでもないが、聖書、ラテン語、ギリシャ語、楔形文字で書かれた古典の行間までをも読み解く必要がある。最近では、大惨事が起きた原因まであきらかにされている。

とくにヴェネツィアは、その貴重な文化遺産のために、気象変化によって受ける影響についてつねに研究の対象とされてきた。しかしヴェネツィア共和国(〜1797年)が千年にわたる貴重な記録をわたしたちに残してくれている。

「ヴェネツィア沈没」の危機が騒がれて久しいが、これは、おもにふたつの原因からなる。ひとつは「水位上昇」で、もうひとつは「地盤沈下」。

「水位上昇」は、よく知られているように、地球気候の変動によるもので、ある研究によると、来世紀にはいまより1メートルも高くなるだろうとみられている。これがまず急を要する課題。シロッコ(アフリカから吹いてくる風)が絶えまなく吹いて「水位上昇」を加速しているばかりか、アドリア海の水位変動、太陽と月のうごきも関係している。

「地盤沈下」は、 1900年代後半にすでに憂うべき水準にまで達していた。ゆるやかではあるが法的規制が施行され、地下水の汲み上げについては一応解決している。

「ふたつの原因」と言ったが、もうひとつ重要な原因がある。1900年代、さかんに浚渫(しゅんせつ)をして新しい運河をつくった。このため、「湾の水」と「海の水」とのあいだでとれていた自然のバランスが完璧にくずれてしまった。

Canalettoガリレオ・ガリレイ(1564-1642)が水位の科学的調査をはじめたが、それは、異端審問という政治的危惧から散発的なものにとどまった。散発的調査以外の継続的な調査がはじまったのは、1872年から。

なかでも記憶にとどめられるのが、1867年、ザンテデスキが残したもので、「サン・マルコ広場の階段まで水位が達した」とある。他の資料と照らし合わせると、サン・マルコ広場は一世紀ちょっとのあいだに34センチメートルも沈下したことになる。

「基準水位(comune marino)」は、いわゆる水位の中間点をとったもので、住民にとって、湾の干上がりぐあいのわかりやすい指標になっている。そしてちょうどこの基準水位ぐらいのときに、緑っぽい茶色をした藻が繁殖する。こちらは自然の目印ともいえる。

いまでは、この藻が運河のいたるところ、建物にまで押し寄せ、ときには「基準水位」を示す「CM」という標識にまでからみついていることがある。この藻の繁殖具合を時代を遡って検証してみることは、「水位上昇」と「地盤沈下」の真実を知るてがかりとなる。

写真?!1839年、ダゲールが感光剤を発明して最初の写真ができるようになった。しかし、ヴェネツィア・リアリズム絵画のおかげで、写真に類似したものはそれより一世紀近くも前からあった。

アントニオ・ダ・カナル(1697-1768)、通称カナレットは、アトリエではなく屋外で制作をし、当時の画風を一新した。その際、たぶんお金もうけをたくらんだんだろうが、現在のカメラの原理に共通する「暗箱(カメラ・オスクーラ)」をつかって参考にした。

「カメラ・オスクーラ」は大きな箱で、そのなかにレンズが入っている。風景はレンズを通り、さらに鏡に反射して「紙(いまなら感光紙)」に写し出される。映像はかなり大きく、スクリーンに映し出されたスライドのようなものだ。それをペンでなぞって書く。カナレットはこれを非常な精密さで実行した。

「ズアネ・アントニオ・ダ・カナル ヴェネツィア、サン・マルコ・ドゥカーレ教会の聖歌隊を、メガネなしで描く 68才 1766年」

これは、カナレットが「サン・マルコ聖歌隊」という作品に書き添えた文句だ。メガネなしで?そりゃそうだろ〜!カメラつかってるもん。カナレットが使用していた携帯用の「暗箱(カメラ・オスクーラ)」は、現在ヴェネツィア・コレール美術館に保存されている。

カナレットをはじめとしたヴェネツィア画家たちが残したリアルな風景画のおかげで、当時の藻の繁殖状態が推し量れるばかりか、それらを通してヴェネツィアの「水位上昇」と「地盤沈下」に関するてがかりをつかむことができる。

科学と芸術がクロスしてる、いいはなし、じゃない?!

(訳 2001.03.25.)(2004.12.16. 見回り)

カナレット作品
http://www.wga.hu/frames-e.html?/html/c/canalett..

カナレットかんれんファイル

■ 絵画に見るヴェネツィアの水位
■ カステッロ・スフォルツェスコのカナレット作品
■ 1700年代のヴェネツィア

かんれんファイル

■ ヴェネツィアの水害
■ ヴェネツィアを水害から守るバリアー
■ 18世紀ヴェネツィア風景画家ベロット展(ベロットはカナレットの甥)

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