EKAKINOKI

カラヴァッジョの性格

Caravaggio(Michelangelo Merisi) 1571-1610

Vittorio Sgarbi 評・訳

Caravaggioミケランジェロ・メリージ、通称カラヴァッジョ。ハチャメチャな人生と冒険、今日にまで残る芸術作品、このふたつがカラヴァッジョをべつなふたりの人間のようにおもわせる。

芸術家の場合、その作品と人生はたいがい最終的には似通ったものとなる。カラヴァッジョには実生活からかけはなれた『あそび』と『わるふざけ』趣味があったにもかかわらず、研究され尽くした作品にもそれは見当たらない。

作品は、むしろ過激なほどに先進的な考えが反映されているといったほうが説明がつく。カラヴァッジョには、洗練された教養と歴史を変えるような能力、冒険物語りの主人公、喧嘩ずき、こう言ってよければ『傲慢さ』が共存していた。だからどうしたってロマンチックな表現なんかできない。

ときとしてわたしたちには異常におもえても、その時代では当たり前だった・・あるいはわたしたちには『善い人』と映らなくてもその時代には『善人』ということがあるが、カラヴァッジョの『ふつうじゃなさ』は、けっしてその時代でも尋常ではなかった。それは、いわゆる画家としてもだ。1603年になされたこういう証言がある。

「あいつはとんでもないやつだよ。真面目に仕事をしやしない。ひと仕事終えると、一ヶ月か二ヶ月、腰に剣をぶらさげ、背後には従者をしたがえてどっかへ行ってしまうんだ。すぐに他人にちょっかいをだして、喧嘩とか決闘をおっぱじめる。だからとてもじゃないが付き合ってられない。とても画家のするようなこととはおもえません。でも、やつの作品は申し分ないね。ゴージャスでエレガント。若い衆のお手本だ。」

これが、カラヴァッジョの不埒にたいする裁判での証言であったことを考えると、『それでもカラヴァッジョは偉大なアーティストだ』とした意見は、ないがしろにはできない。カラヴァッジョは社会の規範を守らない不埒なやからだったが、今にいたるまで評価されているもうひとつの別の顏をもっていた。

カラヴァッジョの放逸はほんのある一面で、かりにたんなる『発散』だったとしても、あまりに度が過ぎていた。かたっぱしから喧嘩をふっかけ、裁判に訴えられ、アーティチョーク(トゲがある)がのった皿をひとに投げつける。警察官を挑発するなんて朝メシ前。殺し、負傷、逃亡。とてもじゃないがそんななかで、芸術を至高の域にまで高めるなんて、ふつうのアーティストにはできない相談だ。カラヴァッジョの努力と集中力のすごさだろう。

カラヴァッジョが得た着想というのは、そういう経験にあずかっているところがある。おもてに出て発散するというのは、けっきょく仕事場でのストレス解消だったかもしれないが、逆に言うと・・つねに仕事のことが頭にあった、とも考えられる。仕事場以外で起ったことが、すべて制作につながっている。

おなじようなことが、たとえば現代ではピエール・パオロ・パゾリーニについても言える。もちろんパゾリーニの場合でも、現実の経験がすぐさま作品に反映していたわけではない。それにもかかわらず、情熱、願望、ひととの出会い、暴力、死、予感といったさまざまな実体験から、創作につながる着想を得ていたことにまちがいはない。

1603年、名誉毀損でカラヴァッジョは裁判証言せざるを得なくなった。これにはさすがのカラヴァッジョもこたえた。すべておしまい。彼の芸術も、画家としてのキャリアーも。

人生は玉虫色。どん欲なカラヴァッジョはどんなことにもかかわった。その一方で、現実に出会った強烈で、おぞましく、情熱的ないっさいの印象を、いつキャンバスのまえに立って表現しなければならないか、カラヴァッジョにはよく分かっていた。

実生活でなにも感じることができなければ作品はありえない。芸術は人生の鏡であり、こころの鏡だ。カラヴァッジョがしでかしたことは一見暴力とも冒険とも神への冒涜ともとれる。しかしそれは、カラヴァッジョのなかでとてつもなく大きな力となって作品に反映された。伝統的な手法にたよるのではなく、もっとこころの奥底からでてくる人間的な叫び、ほんとうの信仰者だからこそできる方法で、カラヴァッジョは作品を描いた。

人を殺した男に、心のうつくしさが表現できるだろうか。カラヴァッジョにはそれができたのだ。ジョット、マサッチョのあとに、この世の本質により近づいたのは、カラヴァッジョだ。金持ちや権力者ではなくうだつのあがらぬ者や貧乏人・・美しい若者ではなく希望を失った老人たち・・ナルシストではなく嘆き悲しみ疲れ果てた女たち・・つらいおもいのなかから、ほんとうの美しさをカラバッジョは表現できた。

そんなカラヴァッジョに『幸せな日々』は、所詮おとずれなかっただろう。

(2000. 訳)(2002.09.05. 点検)

※ ファイル中の画像: 『エマオの晩餐』(1596-98 National Gallery, London)

※ 原著: "Il Sogno della Pittura (Marsilio)"

かんれんファイル

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カラヴァッジョ作品

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(Web Gallery of Art)

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